archive: 2017年06月

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お腹がすきました。 .. 14

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 エレベーターから降りた後。玄関口へと目線を向けた先に、水森がいた。ちょうどエントランスを抜けてこっちに向かってくる。 彼女の両手にひとつずつ握られた、大きな買い物袋。コンビニで購入してきたらしいお菓子が、レジ袋の中にぎゅうぎゅうと詰められている。まさかあれ全部、自分専用の食べ物じゃないよな。彼女なら十分有り得る話なだけに苦笑してしまう。大食いチャンプの水森なら、あの程度の量など屁でもないだろうけ...

お腹がすきました。 .. 13

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 腹ペコでぶっ倒れていた水森を助けたあの日から4ヶ月半ほど経った。「なあ、マーケの子から今日聞いたんだけど。お前、ミズキチちゃんと付き合ってるってマジ?」「マジ」「なっ、テメッ、みんなのミズキチちゃんを独り占めしやがって!」 横から勢いよく片腕が伸びてきて、首を絞められた。痛い。そしてウザイ。 同じ所属部課であり同期の川井は何かと気が合う友人でもあり、同時に悪友でもある。そしてコイツは社内一の情報...

お腹がすきました。 .. 番外編

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*本編序盤の水森さん視点 ――やっぱり、お腹に何か入れておくべきでした。 後悔先に立たず。その言葉の真意を実感したのは、夕闇迫る時間帯に差し掛かった頃。買い物帰りの主婦の姿も見当たらない、住宅街の一角。私は空腹のあまり、ぺたんと地面に座り込んでしまった。一応成人迎えた大人がこの様だ。本当、情けない。 普段から馬鹿みたいに食べまくる癖に、どうして今日だけご飯を抜いてしまったのか。朝食・昼食抜きのまま、...

お腹がすきました。 .. 12

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「ちょっとだけ、待っててください」「え」 俺の返事も待たずに部屋の奥へと消えていった水森を待つこと数分。奥からカシャン、と金属音の様な鈍い音が響いて、パタパタと走りながら俺の前に戻ってきた。けどさっきと何かが違う。水森の両腕に、毛がもっさもさの生き物が2匹抱えられていた。さっきの金属音はケージを外した音だったらしい。 彼女の両腕に抱えられていたのは、茶色い毛が生え揃った小さなウサギだった。大きな耳...

お腹がすきました。 .. 11

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「か、考えるまでもないです」「……え」「私も、好きです。キリタニさんのこと、好きでした」「……」「私もお付き合いしたい、です」 膝上に置いた新聞の、その上で作られている握り拳は微かに震えている。その震えが緊張からなのか、それとも怯えからなのかはわからない。けれど水森の口から零れた告白は、まるで筋が一本通っているかのように真っ直ぐと、俺の耳に届いた。 正直、不安な部分もあった。デートに誘った事も含めて、...

お腹がすきました。 .. 10

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 水森が事前に予約をしてくれた海中レストランは、床以外は辺り一面ガラス張りの、深海に染まる蒼の空間が広がっていた。何十種類もの魚が目の前を悠々と泳いでいるその光景は、圧巻としか言いようが無い。客の目線は食事より外に釘付けになってしまって、それは俺も水森も同じだった。まるで海の中にいるんじゃないかと錯覚してしまうような造りに、感嘆の息が漏れる。 ずっとここに来てみたかった、そう言った彼女の表情は相変...

お腹がすきました。 .. 09

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 ――デートに誘った次の日。水族館に行きたい、そう彼女は言った。 意外な返答だった。水森の事だから、有名スイーツ店や行列の並ぶ人気ラーメン店の食べ歩きツアーにでも引っ掻き回されるかと思ってた。彼女と2人で過ごせるならそれでもいいとか思っていた自分も大概だ。けれど予想に反して返ってきた答えは、水族館。普通すぎて、本当にそれでいいのかと何度か尋ね返してしまったくらい。 そんな俺の態度にも、彼女は表情を変...

お腹がすきました。 .. 08

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 ――誰とでも仲いいし。友達多いんじゃない。「……」 ――人気あるぜ、あの子。中には実際狙ってる奴もいそうだけどな――「……水森ってさ」「はい」「今付き合ってる奴とかいる?」 突然の話題転換に目を丸くしている彼女を、ただ黙って見つめ返す。けど何だか居た堪れなくなって、俺から先に視線を逸らしてしまった。 これまで何度か夕飯を共にして、色んな話をした。けど、お互いの恋愛事情に関して話題に上がった事は無い。なんと...

お腹がすきました。 .. 07

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 水森曰く、俺達は『ご飯仲間』らしい。グルメ友、略してグル友とも言っていた。 彼女とは週2、3回ほどのペースで夕飯を共にする仲になっていた。彼女に以前教えてもらった例の店で待ち合わせをする時もあるし、美味しいと評判の店を見つければ、一緒に足を運ぶ事もある。 出向く先の殆どは、大勢の客で賑わう大衆居酒屋。値を張るような綺麗で静かなレストランは、彼女はあまり好まなかった。理由は単純で、「一皿に乗ってる量...

お腹がすきました。 .. 06

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 水森さやかは基本的に笑わない。 と言っても、決して常に不機嫌だとか、愛想が悪いという訳ではない。どちらかといえば社交的な性格で、誰かと会話を弾ませている姿も社内でよく見かける。 嬉しいときは頬がほんのり紅潮するし、びっくりした時は目を少し見開いて驚いたような顔つきになる。すごく、わかりづらいが。 いつも無表情に近いが、それでもひとつひとつの感情に、僅かな表情の変化はある。ただ、小さな変化なので所...

お腹がすきました。 .. 05

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「豊さん。こんばんは」「あ、いらっしゃい。さやかちゃ……あれ?」 店の主人はわりと若い男性だった。俺達を出迎えてくれたその人の後ろでは、女の人が後ろ背を向けたまま、何かの作業をしている。もしかしてこの2人は夫婦なんだろうか。 どうやら水森と彼らは、周知の仲らしい。水森はこの店の常連客みたいだし、それもわかる気がする。互いに名前で呼び合うほどの仲のよさなんだろう。 その主人は俺の姿を見るなり、目をぱち...

お腹がすきました。 .. 04

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 今日だけで何度、時間を確認したかわからない。 仕事の合間合間に腕時計を見ては、手が空いている時にスマホで確認。同僚らに「お前、今日落ち着きないな」と言われるくらいだから相当だ。自覚はある。 定時前にあらかた業務を終わらせて、会社の周辺で評判のいい店がないかPCでチェックする。お互い知り合ってまだ1日、一緒に食事に行くのも、当たり前だが今日が初めてだ。変に気取って小洒落た店を選ぶより、親しみ慣れたこ...

短編 .. 01

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遊び人の先輩刑事と、新人後輩さんのお話。------ ――体がひどく重い。 疲労感で重い体に鞭打って、7階へと続くエレベーターのボタンを押す。ポン、と控えめな音が到着の音を鳴らす。肩の凝りを指先でほぐしながら、強行係と書かれたプレートが天井からぶら下がるスペースへと足を踏み入れた。 時計の短針は6時を示していて、普段の出勤にはまだ早すぎる時間帯。室内はがらんとしていた。 ……と思いきや、その場にいたひとりの存...

お腹がすきました。 .. 03

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 もう会うことは無いだろう。 そう思っていた彼女に、いきなり再会した。 行き倒れていた彼女を助けた、その翌日の事だった。 出社前。自社ビルのエントランス。奥のエレベーター前に彼女はひとり立っていた。手にはピンクのショルダーバックと昨日見たトレンチコート。うちの制服を着ていた。 昨日の彼女の格好が脳裏に浮かぶ。コートの襟元から覗いていた制服は、うちの会社のものだったようだ。全く気付かなかった。そもそ...

お腹がすきました。 .. 02

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 公園内を駆け回っていた数人の子供が、母親に呼ばれてひとり、またひとりと笑顔で走り去っていく。 人気も無くなり、遊具の影が夕闇で伸びていくだけの公園、その隅に置かれていたベンチ。白く塗装されたペンキは所々剥がれ落ち、年季の入りようを感じさせた。 俺はそのベンチに座って、さっき購入したばかりのおにぎりとお茶を、隣でうなだれて座っている彼女に手渡した。パンは死守した。 のろり、と顔を上げた女の子の視線...

お腹がすきました。 .. 01

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 水森さやかと出会ったのは、麗らかな春の午後の事だった。 契約を結んだばかりの取引先に朝早くから赴き、打ち合わせをすること数時間。相手のご機嫌取りにもほとほと疲れ果て、やっと解放されたかと思えば時間は既に15時を回っている。本来なら昼前に自社に戻れる筈の予定が、全て狂ってしまった。この後に急ぎの用件がなかった事だけが幸いだった。 受付の女性社員と会釈を交わし、1階のエントランスを出る。緊張が解け、肩...

しあわせごはん。.. 02

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 リル、と名乗ったその子は、俺から数歩ほど離れた先でぴたりと歩みを止めた。目の前まで来ないのは、やっぱり俺を警戒しているんだろう。 俺は今しゃがみこんでいる状態で、女の子の顔の位置は俺の少し上くらい。怯えている相手より目線が下なのは、ちょうど都合が良かった。今ここで俺が立ってしまえば、途端にこの子はビクリと体を強張らせてまた逃げ出してしまうかもしれない。 とりあえず警戒心を解いてあげたいと思った。...

しあわせごはん。.. 01

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 昔から、ありとあらゆる動物に好かれまくる特異体質だった。 好かれる、なんて生易しいモンじゃない。一度外に出向けば、大抵何かが俺の後ろをトコトコとついてくるのが常だった。それこそ、犬・猫・猿・キジ・キツネ・イノシシ・馬・マントヒヒ・黒猫の親子・カルガモの親子何でもアリだ。桃太郎でもこんなに多くの仲間を引き入れることは難しいだろう。 学校からの帰宅時は、必ずと言っていいほど犬猫サル達と集団下校するハ...

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