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22:40:44
03

しあわせごはん。.. 01



 昔から、ありとあらゆる動物に好かれまくる特異体質だった。



 好かれる、なんて生易しいモンじゃない。一度外に出向けば、大抵何かが俺の後ろをトコトコとついてくるのが常だった。それこそ、犬・猫・猿・キジ・キツネ・イノシシ・馬・マントヒヒ・黒猫の親子・カルガモの親子何でもアリだ。桃太郎でもこんなに多くの仲間を引き入れることは難しいだろう。
 学校からの帰宅時は、必ずと言っていいほど犬猫サル達と集団下校するハメになる。
 ゴミを捨てにゴミステーションに行けば、いつも背後から何者かの視線を感じる。振り返れば大体カラスがたかってる。ゴミにたかってるのではなく、俺にたかってる。
 中学ん時に同級の奴らと行った動物園では、何故か檻から脱走したオラウータン(♀)に求愛のポーズで迫られて追いかけ回された。泣いた。今や俺の中で最大のトラウマと化している。
 こんな非日常的な事が、俺の周りでは日常茶飯事となっている。おかげさまで俺は、ご近所や学校で『魔性のアニマルフェロモンマスター』と囁かれる、ちょっとした有名人だ。不名誉でしかない。

 よく動物に好かれやすいタイプとして、無類の動物好きで落ち着いた性格の人間が上げられるが、残念ながら俺は特別動物が好きというわけではない。犬や猫を見て、普通に可愛いと思う程度だ。性格も、別段動物に好かれやすいようなスキルは持ち合わせていない。母親は「動物が好むような匂いでも発してるのかしらねー」なんて呑気な事をほざいていたが、それだって確認のしようが無いから実際のところはよくわからない。

 とにかく、俺――秋月涼太は、ちょっと変わった体質持ちの、けどそれ以外は至って普通の男子高校生だ。むやみやたらと動物を引き寄せてしまうこの体質も、付き合い方によっては得する事もあった。動物好きの女の子と仲良くなれたりとか。



 けど――だからって、人外なモノまで引き寄せてしまうことになるなんて、思ってもみなかった。



 自宅玄関前。今、俺の目の前には、ヘンテコな奴が立っている。
 夕闇迫る時間帯、空はどんより曇り空。今にも雨が降るんじゃないかと思いながら帰路に着いた俺の前に、ソイツは忽然と現れた。
 見た目は普通の子供だ。3、4歳くらいの女の子に見える。ただ、明らかに普通じゃないものがついている。頭の上に2つ、触ったら気持ちよさそうな、ふっさふさの猫耳?犬耳?らしきものが付いている。そしてお尻の辺りに、これまた触ったら気持ちよさそうな、もっふもふの大きなシッポがふわふわと宙で揺れている。なんだあれ。多分玩具か何かだとは思うけど……それにしては、シッポのなめらかな揺れ具合とか、時折ピクンとケモノ耳が細やかな動きをする様は、レプリカでは表現できないような妙なリアリティを感じさせた。

 口が半開き状態でポカンと俺を見つめ続けるその子の手には、スマホが握られている。今はこんなちっさい子でもスマホを持ったりすんのか、そう考えてから、ふと気付く。その子が持っているスマホとストラップが、とても見覚えのあるものだったからだ。思わずポケットを漁る。カバンの中も漁る。……やっぱり、無い。

 今わかっているのは、俺のスマホがいつの間にか無くなっていて、その無くしたスマホを、何故か見知らぬ女の子が持っている、という事だ。そしてその女の子は、俺の目の前にいる。
 一瞬にして、頭の中で様々な疑惑が駆け巡っていく。もしかしてこの子は、俺のスマホをわざわざ届けに来てくれたんじゃないか。けど、どうして拾ったソレが俺の物だとわかったのか、たまたま偶然拾って俺と居合わせただけなのか。そもそも、お前誰よ。とか。
 けどまあ、届けに来てくれたなら、そこは感謝しなきゃな――と、そう思った矢先。
 ひくっと顔を引きつらせたその子は、突然ぶわっと目に涙を溢れさせて、小さな身を翻してその場から逃げ出した。――俺のスマホを持ったまま。



「………へ」



 この時の、俺の気の抜けたようなマヌケ声といったらない。え、スマホ届けに来てくれたんじゃないの?
 呆然と立ち尽くす俺を置いて、颯爽と走り去っていく女の子。互いの距離はみるみるうちに離れていく。突然我に返った俺は、思わずその後ろ姿を追いかけていた。こっちを振り向いた女の子が、俺の凄まじい形相にビクリと体を震わせて、走る速度を急激に上げた。



「ちょ、待って!」

「やー!おいかけてこないで!」

「いや追いかけるなっつってもそれ!!俺の!!スマホです!!!!!」



 でかい声でそう主張すれば止まってくれるかと思いきや、俺の思惑とは裏腹に女の子はスピードを緩めることも無く、逃げて逃げて逃げまくる。俺も躍起になって必死に追いかけるけど、無情にもその背はどんどん遠ざかっていく。そのうち女の子の姿が親指サイズくらいになって、米粒サイズになって、黒ゴマサイズになって、そして消えた。見失った。足はええええぇぇ。


「……マジかよ……」


 全力疾走しても全然追いつけなかった。自宅近くにある小さな公園で、ゼェゼェとみっともなく息を切らす俺の頬に、ぽつりと水しぶきが弾く。見上げれば灰色の空からポツリポツリと透明な雫が降り注いできた。雨だ。
 本格降りになる前に家に帰ったほうがいいと冷静に判断するものの、壮絶な疲労感が体中を襲って、重い足を動かすのも億劫だった。そのままペタンとしゃがみこんで、腹の底から息を吐く。アスファルトに黒い水玉模様が広がっていく様を、ただぼんやりと眺め続けた。

 俺のスマホを持ち逃げした女の子に、不思議と怒りは沸き起こらなかった。どこでスマホを落としたのかわからないが(学校にいた時はあったから帰る途中?)、紛失した事に気付かなかった俺も悪い。もしかしたらあの子は、俺がスマホを落とした所を見ていて、必死で俺を探していたのかもしれない。なら何故持ち逃げされたのかは謎だけど。それに、あんな小さい子を責めるのはとても心が痛む。
 つーかスマホどうするよ。一応回線とか切ってもらったほうがいいのかな。なんで落とした事に気付かなかったんだ。普通気付くだろ。
 はあ、と重い溜息が漏れる。雨が止みそうな気配は無い。灰色の雲と雲の合間から日が差す様子も無い。まるで俺の心模様を表しているかのようだ。そうだこれは俺の心の涙だよ……

 悲壮感に浸っていた、その時。遠くから、ぺたぺたと地べたを這うような音が聞こえてきた。のろりと顔を上げた先にいたのは、ふっさふさのケモノ耳と、もっさもさのシッポを装着させた、小さな女の子。手にはスマホ。ついさっきの子供だった。
 あ、とだけ声を発した俺に、女の子はゆっくりと近づいてきた。白くくすんだワンピース姿に裸足という、何ともみずぼらしい格好だ。背中まである長い黒髪は、雨でしっとりと濡れていた。


「……リルのじゃなかった」


 俺のスマホを両手で握り締めながら、その子――リルは、ぽつりと一言呟いた。

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