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08:51:07
16

お腹がすきました。 .. 05


「豊さん。こんばんは」

「あ、いらっしゃい。さやかちゃ……あれ?」



 店の主人はわりと若い男性だった。俺達を出迎えてくれたその人の後ろでは、女の人が後ろ背を向けたまま、何かの作業をしている。もしかしてこの2人は夫婦なんだろうか。
 どうやら水森と彼らは、周知の仲らしい。水森はこの店の常連客みたいだし、それもわかる気がする。互いに名前で呼び合うほどの仲のよさなんだろう。
 その主人は俺の姿を見るなり、目をぱちくりとさせた。



「大変だ。さやかちゃんが男を連れてきた」

「なんだと。まじか」



 男性の背後にいた女の人が、くるんと体を一回転させてこっちを振り向いた。俺と水森を交互に見て、ひゅうと口笛を鳴らす。



「しかも男前じゃん」

「私から誘いました」

「やるね、さやかちゃん」

「たまにはやる女です」

「そうそう。今の時代、女も積極的でないとね」

「同感です」

「席、結構空いてるよ。どこでもいいよ」

「ありがとうございます。キリタニさん、どこがいいですか?」

「ああ、うん。どこでもいいけど」

「じゃあ、向こうにしましょう」



 一人でさくさくと決めていく水森に苦笑しながら、後ろをついていく。初めて出会った昨日と今日とでは、彼女の印象はだいぶ良い方向に変わってしまった。可愛らしい見た目とは裏腹に、かなり性格がサバサバしてる。あっさりしていて付き合いやすい方だ。あくまでも俺の場合だが。
 彼女に連られて向かった先の、2人掛けの席。そこはちょうど、入口から客が入って来ても俺達の姿が見えないような、死角にあたる場所。店内の配置を知り尽くしている彼女だからこそわかるその特等席に、俺達は座った。



「頼むもの決めようか。水森、何か先に、」



 ぴんぽん。俺が言い終わる前に、水森が店内の呼び出しチャイムを押した。メニュー板も見ずに。



「……」



 何事かと固まった俺をよそに、さっきの女の人がメモ帳を片手に飛んでくる。



「はいはーい。ご注文はお決まりですか?っていうか、さやかちゃんの場合もう決まってるだろうけど」

「チキンボロネーズ、6つお願いします」

「……」

「あと、チューハイです」

「りょうかーい。もう既に調理入ってるから待っててね~」



 颯爽と走り去る女性を見送ってから、俺は彼女に話しかけた。



「水森」

「はい」

「チキンボロネーズ、6つって」

「ここのチキンボロネーズが激うまなのです。是非キリタニさんにも食べて頂きたいのです」

「うん、それはいいんだけど」

「あ。キリタニさんの飲み物、ご注文忘れてました。何がいいですか」

「ウーロンで。いやそうじゃなくて、6つって」

「はい」

「計算おかしいだろ」

「おかしくないです」

「いやおかしい。今この場に俺と水森しかいないだろ」

「えと。キリタニさんの分が1つで、私が5つです」

「………5つも食べるのか」

「8つは余裕です」

「………すごいな」



 その小さい体のどこに、そんな量が入り切るほどの余裕があるのか。胃がブラックホールなのか。



「きっと私の胃はブラックホールなんですよ」



 被った。



「できたよーん」



 能天気な声が駆け寄ってきたと同時に、どん。と3つ分の皿が運ばれてきた。一度に6つはさすがに運べないようで、後で追加で持ってきてくれるようだ。
 テーブルの上で、出来立て熱々のチキンボロネーズがじゅわじゅわと音を弾かせて、香ばしい匂いを漂わせている。顔を近づけて、その香りを堪能する。



「へえ。見た目からして美味そうだな」

「とっても美味しいです。キリタニさんもきっと気に入ります。お先にどうぞ」

「じゃあ、頂きます」



 先にうながされて、ナイフとフォークを駆使して、口へと運ぶ。



「あ、美味い」

「ですよね」

「うん。ミートソースの酸味が効いてて、食欲進む味だな。それに、外側がすごくサクサクしてる」

「この外のサクサク感と、分厚いお肉のジューシー加減が楽しめるのも、絶賛する要素のひとつです」

「うん。わかる。まじで美味い。水森ほどじゃないけど、これなら俺も2皿はいけそう」

「私の分、ひとつあげますよ」

「いいの?」

「私はこの後、チーズスパゲティ3つ頼むので十分です」

「……」

「はーいお待たせ~。追加の3つ分置いとくよ~」

「ありがとうございます。ウーロン1つお願いします。あとでチースパ3つ頼む予定です」

「はーいその時はまた呼んでね~」



 既に慣れているといった感じで厨房に戻っていく。実際、慣れているんだろう。普段からこんなに暴食漢なのか。すげーな。
 苦笑しつつ顔を見上げたら、既に彼女はフォーク片手にチキンボロネーズを一口摘んでいた。昨日、おにぎりとお茶を分け与えた時に垣間見た彼女の幸せそうな表情と、今、目の前に広がる表情が一致する。瞳を閉じながらじんわりと料理の美味さを堪能しているようだ。頬が紅潮して、もともと幼い顔が更に幼く見える。
 少しだけ口角が柔らかく曲線を描いていて、また彼女の新たな一面を発見する。……食べてる時は、笑うんだな。
 まあどんなに不機嫌なヤツでも、美味しいもの食べてる時は笑顔だしな。そう思いつつ、彼女の小さな笑顔が拝むことが出来た事に得した気分を味わう。
 また、彼女を食事に誘いたい。そう思いながら、二口目を口の中に放り込んだ。



▼お気に召したらぽちっと。



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