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05:15:16
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お腹がすきました。 .. 06


 水森さやかは基本的に笑わない。
 と言っても、決して常に不機嫌だとか、愛想が悪いという訳ではない。どちらかといえば社交的な性格で、誰かと会話を弾ませている姿も社内でよく見かける。
 嬉しいときは頬がほんのり紅潮するし、びっくりした時は目を少し見開いて驚いたような顔つきになる。すごく、わかりづらいが。
 いつも無表情に近いが、それでもひとつひとつの感情に、僅かな表情の変化はある。ただ、小さな変化なので所見だと気づきにくい。本人が喜んでいても笑みにならない程だ。本当に、変わった子だと思う。

 見た目は可愛いと思う。背もちっこい。喋り方が舌足らずなのは、人に――特に女子に反感を抱かれやすいが、水森の場合、まず男に媚を売らない。それでいて、あのサバサバした性格の持ち主だ。同性に嫌われるような要素が無い。

 仲良くなってから気付いた事だが、水森はたまに発言がすごく変だ。変、というのは、いきなり親父ギャグを連発したり下ネタトークを展開させたり、男以上に漢らしい発言をしたり。あの顔に似合わず、言う事がズレてたり大胆だったりする。
 そして発言にも行動にも迷いが無く、淡々と物事を進めていくのが水森だった。例えば夕食のメニュー然り、今日着ていく服装然り。何かしらの決め事にも、その辺の女のように延々と悩むような事はしない。目の前にある課題や問題事すら、スパスパと裁いていくその姿の清々しさと言ったらない。優柔不断ではないという事だ。
 可愛いのに無表情、そして大食いでド天然という意外性すぎるキャラが、男性社員のみならず女性社員、はたまた上司から面白がられている。お陰で水森は、うちの社のマスコットキャラ的な位置付けで皆に好かれているようだ。



 水森と知り合ってから1ヶ月ほどたったある日、1階のエントランスで彼女とマーケ部課長の姿を見かけた。
 若手で凄腕だと言われている清水課長。あまり話したことは無いが、確か27か8くらいだったはず。女性社員からの人気が高いだけではなく、部下からも厚い信頼を得ている人だ。
 その清水課長は、ちょうど出社してきた水森を見かけて、声を掛けてきたようだ。



「おー水森。おはよう」

「課長。おはようございます」

「今日もチビで無表情だなー」

「これが私のキャラです」

「ちゃんと朝ごはん食べたか?歯磨いたか?」

「磨きました。歯磨き後はフロスで歯茎をシコシコキュッキュしました。ぬかりはないです」

「そうかそうか。えらいぞ水森。でも男の前でシコシコとか言うのはやめような」

「はい」



 朝からなんつー会話してんだよ。軽くセクハラだろ。
 冷めた顔で内心突っ込んだ俺をよそに、2人の周りに女性社員が数人集まってくる。その輪の中心にいる水森を見ていた俺に、ちょうど出社してきた同僚の1人が話しかけてきた。



「おっす。何してんのお前」

「なあ、あれって」

「うん?あー、ミズキチちゃんとマーケの課長じゃん」

「……?水森だろ?」

「うん。あ、ミズキチちゃんって、あだ名な」

「あだ名?」

「本人が言ってた。小学生の頃から、ずっとあだ名が『みずきち』なんだと」

「……なにお前仲いいの」

「仲いいかは知らんけど、すれ違ったら話す程度だよ。ミズキチちゃん、誰とでも仲いいし。友達多いんじゃない」

「ふーん……」

「人気あるぜ、あの子。あ、人気って男にモテるとかじゃなくて。面白すぎるキャラだからさ」

「ああ……そういう事」



 まあ、わかる。けど。
 水森がああいうキャラだって、知ってるのも。仲いいのも。
 俺だけじゃなかったんだな、って。
 当然と言えば、当然だけど。
 なんとなく、面白くない。



「まあ、中には実際狙ってる奴もいそうだけどな。可愛いし」

「……」

「俺先に行くからなー」

「……おー」



 やっぱり聞くんじゃなった。朝から気分悪い。

 呆けてる俺の前で、同僚はそのままエレベーターに乗って去っていった。いつの間にか清水課長はその場を離れていて、周りにいた女性社員の姿も散っていく。彼女らに手を振っていた水森が、不意にこっちを見た。突然すぎて、思わず心臓が跳ねる。向こうも俺が出社してきた事に今気づいたみたいで、少し驚いた顔つきでこっちに駆け出してきた。相変わらずの真顔っぷり。



「ふおおおぉ。キリタニさんっ」

「……?」



 奇声を上げながら、なぜか両手を突き出して突進してくる。何事かと思ったけど、俺も同じように真似れば、近づいてきた彼女の両手がぱちんと俺の両手と合わさって音を弾いた。唐突のハイタッチ。



「キリタニさん」

「はい」

「おはようございます」

「おはよう」

「聞きました。A社の大型案件、キリタニさんが契約結んできたって」

「ああ、それ」

「すごいです。A社なんて大手過ぎて課長も部長もみんな諦めてたのに。さすが営業課の期待のホープさんです」

「持ち上げすぎだって」

「そのお話、ぜひ聞かせてください」

「いいよ。じゃあ今日の夜、いつもの場所で」

「はい。楽しみにしてます」



 そう言って俺から離れた水森はいたって普段通りで、1人置いてけぼりをくらったような俺はその日ずっとモヤモヤとした気分が拭えないまま、定時までの時間を過ごした。



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