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09:11:23
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お腹がすきました。 .. 07


 水森曰く、俺達は『ご飯仲間』らしい。グルメ友、略してグル友とも言っていた。
 彼女とは週2、3回ほどのペースで夕飯を共にする仲になっていた。彼女に以前教えてもらった例の店で待ち合わせをする時もあるし、美味しいと評判の店を見つければ、一緒に足を運ぶ事もある。
 出向く先の殆どは、大勢の客で賑わう大衆居酒屋。値を張るような綺麗で静かなレストランは、彼女はあまり好まなかった。理由は単純で、「一皿に乗ってる量が少ない上に、追加注文がしずらい空気」だから。いかにも彼女らしい主張だ。質より量派、らしい。

 ご飯を食べながら話す内容といえば、ほとんどが仕事の事。お互いに共通の話題で盛り上がれるのは、やっぱり営業とマーケの情報だった。
 水森はかなりの勉強家で、特に流行りものに関しては誰よりもいち早く情報を仕入れてくる。それこそ、食やファッション・遊びにエンタメ情報などジャンルは多彩に渡る。世間のニーズや動きに、常にアンテナを張っている。
 流行をいち早く察知して情報を仕入れるだけではなく、過去のデータから換算して、次に来る流行ものを予想立てするのも水森の得意分野だった。
 彼女の情報収集能力の高さは毎度舌を巻く。顧客の好みやターゲットを絞る上で、水森の知識は俺が営業を成功させる為の必要不可欠な要素となっていた。



「……いつも思うけど、営業の効率化を図る為に改善する余地はまだ多いよな」

「マーケもIT化が進んで、精度の高いメッセージを各方面に展開できるようになりました。営業の皆さんが仕事しやすいように、私ももっと頑張ります」

「水森は十分頑張ってるだろ。かなり有能だよ。すげー助かってる」

「私が有能だとしたら、きっと先輩方のお陰です」



 さりげなく上の立場の人間を立てるのも忘れない。誰が見ていなくとも、だ。
 水森らしいと言えば、らしいけど。マーケ側の人間とは様々な情報を共有してきたけど、過去、水森以上に有能だと思える人物には出会ったことが無い。まあ俺もまだ2年目だから偉そうな事は言えないけれど。



 一緒にご飯を食べるようになって、互いに色んな話をした。仕事だけじゃない、他にも趣味や家族、学生時代の事も、いろいろ。中でも趣味に関しては、俺が水森だけにしか話せない共通の話題がひとつだけある。



「そういえば水森。今日のでプラ転したんじゃないか?」

「はい。何回か小分けにして買ってたから、まだマイナスのものもありますが。トータルで言えばプラスです」

「へえ。やったじゃん」

「キリタニさんは?」

「俺も一応プラス。頭ひとつ飛び出たって程度だけど」

「では、互いのポートフォリオプラ転に乾杯ですね」

「ウーロンだけどな」



 カチン。互いに中身の残るグラスを軽くぶつけ合う。カラリと氷と氷のぶつかりあう音が振動で伝わってきた。グラスの向こうにいる彼女は相変わらずの無表情で、でもどこか穏やかな顔つきにも見える。



 仕事以外での水森との共通の話題は、意外な事に『株』だった。

 高校生の頃、興味本位で株式ゲームに手を出した。投資の仕組みさえ理解出来れば、これがなかなか面白い。ネット上で自動的に通貨が作られる株バーチャルの安心感からか、のめりこむようにハマっていった。
 ゲームと言っても実際の金銭が絡んでいないだけで、本物の株投資に近い雰囲気だ。株を始めたい初心者が、まずは練習がてらバーチャルトレードに手を出す場合も多い。
 3年もゲームを続ければ、それなりに株の知識はつく。社会に出て働いて、自身で稼げるようになれば金も貯まる。その時点で俺はバーチャルから卒業し、実際の株投資に手を出した。
 ネットとは違うリアルな世界。当然、儲けや損失が懐に響いてくるから、生半可な覚悟で株はできない。見極めを誤まれば、マイナス数十万の損失が俺を待っている可能性があるからだ。けど、株に手を出した事で得た膨大な知識は、少なくとも今の自分にとってプラスになっている。

 水森も株投資をしていると知ったのは、3回目のご飯に誘った時だった。
 仕事の話が尽きれば、会話の流れは自然と互いのプライベートな話に移る。その過程で、株投資をやっている事を本人が明かしてくれたのがキッカケ。俺も同じように株をやっていた事に、彼女自身もまた、相当驚いていた。
 彼女も学生の頃から、バーチャルで株をやっていた。まだ高校生の女の子が、株投資に興味を抱くあたりが、何とも水森らしい。
 興味本位で始めた俺と違って、水森の場合は完全に実践向け。いずれ実際の株投資をする為に、株バーチャルは練習用に始めたようだ。社会に出てから実際に手を出し、そして現在に至る。



「利確も考えなきゃですね」

「もう?夢ないな。プラ転したらすぐそれか?」

「まだ売らないけど……目標値がないと不安です。30万超えで一旦利確するのか、35万ラインまではホールドするのか、とか」

「いざ上がりだしたら難しいからな。トレンド変換したら売りたくなくなるし」

「買いだけでは儲からないですからね」

「売り時期って難しいよな。決断に迷うっていうか」

「買いのタイミングが良くても、売り時外したらマイナスになっちゃいます」

「うん。けど、来週には調整入りそうだけど」

「まだ売らない方がいいですか?」

「勢いありそうだし、まだ売る時じゃないと思う」

「うーん……」

「……水森ってマーケは積極的なのに、株は消極的だよな」

「だって、お金絡んでますから」

「まあそうだけど」

「株で一億とか稼いでみたいです」



 真顔ですごい事言ってきた。

 株に興味ない奴から見たら、こいつら何の会話してんだと突っ込まれかねない勢いだ。株投資はいわばギャンブル的要素みたいなものもあるから、堂々と人には話せない。この不景気の中、実際にお金が絡んでくるとなれば、株に手を出す事を躊躇する人も多い。現に俺の周りで、株投資している人は誰もいなかった。水森の周辺も同様らしい。

 最近では、仕事の話よりも株の話で盛り上がることが多くなった。株式や投資は日々マーケットが変動しているから、会話のネタに困ることはまず無い。お互いに経験も知識もある。株の戦略だのトレードだの、様々な観点から話が白熱する事もある程だ。水森と話すのは本当に楽しい。



 ――仲いいかは知らんけど、すれ違ったら話す程度だよ。



 不意に、今朝の同僚の言葉が蘇った。
 俺と水森は既に、すれ違ったら話す程度の仲以上だと、俺は思ってる……けど。



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