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09:17:11
18

お腹がすきました。 .. 08



 ――誰とでも仲いいし。友達多いんじゃない。



「……」



 ――人気あるぜ、あの子。中には実際狙ってる奴もいそうだけどな――



「……水森ってさ」

「はい」

「今付き合ってる奴とかいる?」



 突然の話題転換に目を丸くしている彼女を、ただ黙って見つめ返す。けど何だか居た堪れなくなって、俺から先に視線を逸らしてしまった。
 これまで何度か夕飯を共にして、色んな話をした。けど、お互いの恋愛事情に関して話題に上がった事は無い。なんとなく、その話題を避けてきた部分もある。明確に問いかけたのは、これが初めてだ。
 目線の先にいる彼女は相変わらず、表情の変化が見られない。彼女の顔から感情を読み取るのは、なかなか至難の業だ。
 気まずさの残る空気が、緊張を増幅させる。一瞬の沈黙の後、彼女はふるふると首を横に振った。



「いないですよ」

「……そうなんだ」



 その返答に、心の底から安堵している自分に気がついた。
 ここでこんなに安心するということは、つまり、俺はきっとそういう事なんだろう。彼女に対する想いには薄々感づいてはいたけれど、今この瞬間、はっきりと自覚した。俺は水森が好きなんだな、って。



「……というより私、長続きしないんです」



 そんな、掠れたような声が届いたのは、そう自覚した直後。



「昔、何度かお付き合いした人はいるんですけど」

「うん」

「すぐにフラれちゃうんです。私には、恋愛は向いてないんだと思います」

「……なんで?」

「私、見た目も中身も子供っぽいから。『ガキっぽくて、一緒にいて疲れる』って言われて」

「……」

「実際、そうなんだと思います」

「……そんなことないだろ。俺なら、」

「……え?」

「……いや、なんでもない。急ぎすぎた」

「え……あ、はい……」



 それっきり水森は何も喋らなくなって、手元のグラスに視線を落とした。
 彼女は鋭いし、頭の回転も速い。恋愛に関しても、きっと鈍い方ではない。俺の、さっきの微妙な言い回しやこの空気に、何か思うところはあるはずだ。
 彼女にとって俺はどういう存在なんだろう。ただのご飯仲間のままなんだろうか。
 そうだったとしても、俺はもう、それ以上を望んでいるから。



「水森」

「は、はい」

「今週末、空いてる?」

「へ」

「どっか行かないか?2人で」

「え……」



 そこでやっと俺の顔を見上げてきた水森の表情は、あまり変わり映えしていない。それでも、頬がほんのりと桜色に染まっている事に不謹慎にも嬉しくなった。
 ある意味、賭けに出た。この微妙な空気の中で誘いを断られたら、もうその時点で脈は無いだろうし、まだ想いが浅いうちにさっさと身を引こうと。そう考えていたけれど。



「あ、空いてます」

「……」

「がら空きです。24時間自宅待機中ですセコム並みに」

「……セコム」



 両手でグラスを握り締めながら、照れ隠しついでにジョークを言う水森に苦笑する。相変わらず笑みは無いけれど、その横顔がどこか緊張で張り詰めているのがわかる。小さな耳がほんのりと赤い。可愛い。
 堪らなくなって、グラスを握る彼女の両手にそっと手を添える。ぴくりと、隣で肩が震える気配が伝わった。



「どこ行きたいか考えておいて」

「……はい」



 視線は合わない。けど、心の距離が、近づいた気がした。

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