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15:51:06
23

お腹がすきました。 .. 12

「ちょっとだけ、待っててください」

「え」



 俺の返事も待たずに部屋の奥へと消えていった水森を待つこと数分。奥からカシャン、と金属音の様な鈍い音が響いて、パタパタと走りながら俺の前に戻ってきた。けどさっきと何かが違う。水森の両腕に、毛がもっさもさの生き物が2匹抱えられていた。さっきの金属音はケージを外した音だったらしい。
 彼女の両腕に抱えられていたのは、茶色い毛が生え揃った小さなウサギだった。大きな耳がぺたん、としな垂れて、まんまるな瞳を真っ直ぐ俺に向けている。その傍らには、白と黒の毛が混じり合った、長い毛並みで覆われた生き物。ウサギではないけれど、何だこれ。よくわからない生き物。例えるならば、



「……モップ?」

「モップじゃないです。ウサギのウサ子と、モルモットのモル男です」

「……そのまんまだな」

「そのまんまです」



 ネーミングセンス皆無か。ふわりとウサギの頭を撫でれば、鼻先をすんすんと鳴らしている。俺の手は食いモンじゃないんだけど。飼い主に似たのか。
 モルモットらしい生き物に至っては、どこに目があって口があるのか、全然わからない程のもっさり具合だ。



「ペット、いたんだ」

「はい。キリタニさんはペットを飼っていないようなので、黙ってたんですが。折角の機会なので、ご紹介です」



 確かに。ペットを飼っていない奴に、ペットの話をされるほど苦痛なものは無い。
 その辺りの気遣いが咄嗟に、自然とできてしまう。他の女の子には無い、水森だけの長所だ。



「あの」



 両腕に収まっている2匹をぎゅっと抱え直して、水森は俺を見上げた。相変わらずの無表情。



「これからも、よろしくお願いします」

「うん」

「飽きられないように、頑張ります」

「……」



 その言葉の端から、彼女の中にある不安が感じ取れる。
 好意を抱いていた奴らから「ガキっぽい」と飽きられて、離れていってしまった過去の記憶。
 別に俺を信用していないわけじゃない。それでも、不安要素は拭えないんだろう。



「……頑張らなくてもいいよ」

「でも」

「関係が変わっても、何かを無理に変える必要ないだろ」

「……」

「今までみたいに仕事の話して、株の話もして。またこうやってご飯、食べに行こ」

「……キリタニさん」

「俺達は『ご飯仲間』、だろ」

「……はい」



 花びらが舞うようにふわっと微笑む。ご飯を食べてる時の笑みとは違う、きっと彼女本来の素の笑顔。
 ……ここで全開の笑顔とか、ほんと反則だ。

 コートのポケットに手を突っ込んだまま、身を屈める。彼女の吐息を唇で感じながら、そっと熱を落とした。すぐに顔を離せば、無表情のまま赤面してる水森の姿がある。違和感ありすぎて、なんか笑えた。



「ふ、不意打ちはズルいと思います」

「そっちもな」

「え?」

「そろそろ帰る」

「え、あ、はい。おやすみなさい」

「うん。おやすみ」



 ぺこっと頭を下げて、ゆっくりと扉が閉まる。カチン、と鍵が閉まる音を確認してから、その場から離れた。夜風はひんやりと肌に冷たくて、でも心は温かい。
 スマホを取り出して時間を確認すれば、もう22時を回っている。水森といると時間がたつのが早い。自宅から何度か着信があった事にすら気付かなかった。
 車に戻ってから自宅に電話を掛けなおそうとして、けれど突然メールの着信音が響く。その相手先の名前を確認して、思わず口元が綻んだ。律儀すぎる。
 彼女らしいシンプルな文面に苦笑しながら、俺もシンプルな一言を打ち込んで、送信ボタンを押した。



(了)

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