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02:07:05
25

お腹がすきました。 .. 13



 腹ペコでぶっ倒れていた水森を助けたあの日から4ヶ月半ほど経った。



「なあ、マーケの子から今日聞いたんだけど。お前、ミズキチちゃんと付き合ってるってマジ?」

「マジ」

「なっ、テメッ、みんなのミズキチちゃんを独り占めしやがって!」



 横から勢いよく片腕が伸びてきて、首を絞められた。痛い。そしてウザイ。
 同じ所属部課であり同期の川井は何かと気が合う友人でもあり、同時に悪友でもある。そしてコイツは社内一の情報通で名が知れている男でもある。
 ただしその情報というのは、社内で誰と誰が付き合ってるだの不倫してるだの、いかにも噂好きの女が好みそうな情報ばかりだ。胡散臭い上にあてにならない。むしろその情報通っぷりを営業面に生かせばいいのにとすら思う。けどそれをこのバカに言ったところで「真面目か」と流されるだけだろうから言わない。言うだけ無駄だ。
 思えば水森のあだ名を教えてくれたのもコイツだった。水森が社内で人気はあるけど男にはモテないとか言ってたのも。



「まじかぁ……女嫌いなお前にもようやく春が」

「付き合い始めたのも春だったな」

「は?って事は何。結構経ってんの?交際何ヶ月?」

「3ヶ月くらい」

「はあああ!?3ヶ月!?俺全然知らなかったんだけど!?」

「言ってねぇし」

「言えよ!」

「なんで」

「はあーまじかー…あのミズキチちゃんとお前がねー…」



 腕を組みながら、感慨深そうにうんうん頷いている。なんだお前お父さんか。冷めた視線を送る俺に、瞑っていた目をぱちりと開けた川井の口角が上がる。何ともいやらしい目線を俺に送ってきたかと思ったら、また腕を首元に巻きつけてきやがった。だから痛い。



「なあ、どこまでいった?さすがにチューはしたよな。エッチした?した?」

「黙秘権を行使する」

「そういう言い方するって事はお前まだしてねーな?」

「いいからお前もう仕事戻れよ」

「誤魔化すなって。ミズキチちゃんって確か1人暮らしじゃなかったっけ?部屋には行った?」

「玄関までは行った事ある」

「はい???」



 訝しげに俺を見返す川井が、突然ぶはっと噴き出した。汚ねぇ。



「おまっ、何、玄関までって!なにそれ新手のギャグ!?」

「お前のその顔の方がギャグだわ」

「ちょ、やめてそんな事言わないでオレ傷ついちゃう!じゃなくて!3ヶ月も付き合ってて何もナシってお前色々大丈夫!?」

「声でけーよ」

「まさかの奥手キャラだったのかよ!」



 何が可笑しいのかわからんが、どうやら俺は川井のツボに入ったらしい。腹を抱えてひたすらヒーヒー笑い転げてる。マジで煩い。ムカついたから体を捻って川井の足をガツンと蹴った。上手い具合に向こう脛にクリティカルヒットしたらしく、激痛に悲鳴を上げながら悶絶している。ご愁傷様、そう一言告げてから俺は席を立つ。これから外回りで仕事がある。



 部課を出てエレベーターに辿りつくまでの間、俺と顔を見合わせた数人の社員が軽く会釈をしてきた。俺も同じように交わす。その中に、俺と水森との関係を知ったのだろう、ひそひそと耳元で囁きあいながら俺を意味ありげに見つめてくる女性社員の姿もあった。正直ウンザリする。女の何が苦手って、こういうところだ。コソコソと噂を立てられる事が、本人達にとってどれだけ居心地が悪く不快な気分を味わうか。きっとわかっていない。わかろうともしない。だから嫌い、だった。過去形になってしまうあたりが、以前の自分との違いだ。決してそんな女の子ばかりじゃないと、俺はもう、知ってしまったから。
 ……と言っても、知ってるのは今のところ、身内を除けばたった1人だけだが。



「……けどなあ」



 エレベーターに乗り込んで、壁にもたれながら溜息をつく。
 あのアホ(※川井)の言う事も一理あって、3ヶ月も付き合っておいて何もないというのは、確かに色々出遅れてる気がする。
 キスはした。と言っても頻繁にするわけでもないし、基本仕事人間な俺達は休日出勤なんてわりと普通。だからデートらしいデートなんて、ほぼ皆無。彼女の部屋に行ったのも、あの1回目のデートきりだ。それだって玄関まで、だけど。
 2人で出掛けた先で話す内容も、仕事と株とご飯がメイン。それは付き合う前も後も変わらない。
 別に奥手キャラでもないし、清く正しく、なんて一昔前の綺麗事を主張するつもりもない。ただ、がっつく程の事でもないと思うし、そもそも俺も水森も、色恋で騒ぐようなキャラじゃない。自分達のペースでいい、そう思ってる。それを周りが勝手に騒ぎ立てるのは、やっぱり少し、不快感が増す。同時に焦りも。
 ……俺達のペースでいいと思ってる俺が、間違ってるのか。水森自身は、それ以上を望んでいるのか。
 それに俺自身も、もう少し先に進みたい、そんな思いも少なからずある。頭抱えるほど固執していないだけだ。望んでいないわけじゃない。

 彼女と付き合い始めて、3ヶ月。
 そろそろ、彼女自身にも触れたい。




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